ワインセラーの「ペルチェ」と「コンプレッサー」どちらを選ぶべき? 専門家に聞いた
ワインセラーの「ペルチェ方式」と「コンプレッサー方式」とは
ワインにハマると欲しくなるのがワインを大量に貯蔵できる家庭用のワインセラー。ところが、いざ購入しようと検討をはじめると、悩ましいのが「ペルチェ式とコンプレッサー式、どちらを選ぶべきか?」という問題だ。果たしてどちらを選ぶのが正解なのか。株式会社イズミセでワインセラーの販売を担当するエキスパート・奥村将宏に聞いた。
さて、ペルチェ方式にするかコンプレッサー方式にするかといわれても、まずそもそも「ペルチェ」とはなにか、「コンプレッサー」とはなにかというところからわからないという方がほとんどだろう。両者の違いは、セラーの庫内を冷やす冷却方式の違いにある。
奥村(以下同):「ペルチェ方式のワインセラーは「ペルチェ素子」と呼ばれる板状の半導体熱電素子に電気を通すことによって庫内を冷却し、同時に庫外に放熱。それに対してコンプレッサー方式は冷媒と呼ばれるガスが循環することにより、庫内を冷やす方式。冷蔵庫で使われるのと同じ冷却方式です」
電流を流すことによって片側を冷却し、片側を加熱する性質を持つペルチェ素子を用いるのがペルチェ方式で、ワインセラー以外にもパソコンのCPU冷却や除湿機などにも使われている。一方、フロンガスなどの冷媒によって庫内を冷やすのがコンプレッサー方式で、これは冷蔵庫、エアコンなどと同じ方式。
ただ、原理原則よりも重要なのは「どちらを選ぶべきか」だろう。ペルチェ方式、コンプレッサー方式それぞれのメリット・デメリットを教えてもらおう。
「ペルチェ方式」のワインセラーのメリット・デメリット
奥村:「まずペルチェ方式のメリットから。ペルチェ方式は簡易的な冷却方式なので、まず軽量。そして製品自体の価格も安価にすることができます。ですので、ワインセラーを初めて購入する方、ちょっとお試しでワインセラーを使ってみたいという方が、入門編として購入するのに向いていると言えます」
軽量で安価ならありがたいが、もちろんデメリットも存在する。それが冷却能力、そしてランニングコストだ。
奥村:「ペルチェ方式の場合、周辺温度に対して14度から15度くらいしか庫内温度を下げることができません。ですので、たとえば周辺温度が30度だとすると、15度から16度以下には冷やせません。また、ペルチェ方式は稼働を止めることができず、常にファンを回し続ける構造になっているため、電気代がコンプレッサー方式に対して高くなるというデメリットもあります」
コンプレッサー方式は、庫内を冷やし、冷えたら稼働を止め、庫内温度が上がったらまた冷やし……というふうに、稼働を止める時間があるが、ペルチェ方式の場合絶えず稼働し続けるため、中長期的に見るとコストが高くつく。
奥村:「また、同じ理由で平均的な製品寿命もペルチェのほうが短いです。どうしても、機械は稼働時間が長いほど故障のリスクが高まってしまいますから」
もちろんペルチェ方式が“壊れやすい”という意味ではないが、最終的な製品寿命はコンプレッサーのほうが長くなるのだという。
「コンプレッサー方式」のワインセラーのメリット・デメリット
では一方のコンプレッサー方式には、どんなメリット・デメリットがあるのだろうか。
奥村:「コンプレッサーのメリットは高い冷却能力。しっかりと設定温度通りにワインを保管できるということにあります。ですので、長期にわたってワインを熟成させたい、保存したいという用途であれば、基本的に私どもはコンプレッサー方式をおすすめしています」
大切なワインや高級なワインを長期にわたって保存・熟成させ、飲み頃を迎えたころに飲むというもの。子どもの誕生とともにワインを購入し、セラーで長期にわたって寝かせて成人を迎えたタイミングでお祝いに開ける……というワインラバーも多い。
そのような目的でワインセラーを購入するのであれば、安定した冷却能力のあるコンプレッサー方式がおすすめということになる。
奥村:「また、製品価格はペルチェよりも高いですが、省電力性はコンプレッサーのほうが高いため、ランニングコストも含めるとコスパにも優れています。毎月の電気代を低く抑えたいならば、コンプレッサー方式を選んだほうが無難です」
長期にわたってワインを保存するのであれば電気代も気になるところ。ランニングコストが抑えられるのも立派なメリットだろう。ただ、コンプレッサーにもデメリットは当然ながらある。そのひとつが「音」だ。
奥村:「ペルチェ方式のセラーの動作音が非常に静粛なのに対して、コンプレッサー方式の場合は、冷蔵庫同様に稼働時に『ブーン』という音がします。音に対するとらえ方は人それぞれで一概に言えませんが、気になる方は気になるかもしれません」
セラーを置く場所は家庭において様々。たとえば寝室に置くという場合であれば静粛性は非常に重要になってくる。一方で、冷蔵庫の隣に置くとか、書斎などの生活の場ではない場所に置くのであれば、音はあまり気にしなくていいかもしれない。このあたりは音の感じ方も含めて個人や家庭の事情によるところが大きいので、どこに置くかやご自身が音に対して気になるタイプかそうではないかを考えて、選ぶ基準にするのがベターだろう。
ペルチェ方式とコンプレッサー方式は用途で選ぼう
ちなみに、スペック的な部分でいうと、ペルチェとコンプレッサーを比較した場合、重量はペルチェのほうが軽くなるが、サイズ的にはペルチェ方式でもコンプレッサー方式でも同じ収納可能本数であれば大差がない。
コンプレッサー方式 | ペルチェ方式 | |
初期費用 | △ | ◎ |
ランニングコスト | ◯ | △ |
冷却能力 | ◎ | △ |
製品寿命 | ◎ | ◯ |
動作音 | △ | ◎ |
用途 | 一定温度でのワインの(長期)保管・熟成 | ワインの一時保管、お試しセラー購入 |
また、コンプレッサー方式の場合、冷却だけでなく周辺温度の影響によって庫内温度が下がりすぎた場合に加温して温度を設定温度に保つ機能などが搭載されている場合もある。冬、室内温度が極端に下がってしまうような環境であれば、冷やすだけでなく保存に適した温度まで庫内を温めてくれる機能はコンプレッサー方式ならではの嬉しい機能だ。
そのこともあって、高級だったり思い入れのあるワインを長期にわたって安定的に保存するならばコンプレッサー方式がおすすめということになる。一方、ワインセットなどで家に届いた10本、20本のワインを飲むまでの間冷蔵庫以外の場所で保管するといった用途であればペルチェ方式が気軽で便利と言えるだろう。ワインセラーに何万円も払う予算がなかったり、とりあえずお試しで1台買ってみたいという方にとっても、ペルチェ方式は良い選択肢となる。
このように、コンプレッサー方式とペルチェ方式では、単なる冷却機構の違いにとどまらず、ほとんど「用途が異なる」といってもいいほどの違いがある。ご自分がどのような用途でワインセラーを購入したいのか? そこをしっかり見定めて選ぶと、ワインセラー選びは失敗しないはずだ。