ワインセラーを買ったら入手したい! 「熟成に向くワイン」ってどんなワイン?
ワインにハマると、さまざまな産地のさまざまな品種を試したくなるもの。さらに、生産者やヴィンテージによる違いなども気になってくると、ワインセラーを購入してそこにワインを保管しておきたくなるのもワイン好きあるあるです。
さらに、ワインセラーを購入すると、せっかくだから庫内でワインを熟成させたいと思うのは自然な流れ。では、どのようなワインが熟成に向くのでしょうか?
本記事では、熟成に向くワインとは何か? をわかりやすく解説したいと思います。
なぜワインを熟成させるのか?
そもそも、なぜワインを熟成させる必要があるのでしょうか。基本的に、すべてのワインは生産者が飲みごろを迎えたと判断したタイミングで出荷されています。そのため、市場に「熟成させる必要がある」ワインは基本的に存在しません。
それでも、多くの愛好家が自宅セラーでワインを熟成させるのはなぜでしょうか? それは、熟成したワインには出荷直後のワインとは違った魅力があることを知っているからです。なんでも、新約聖書には「「古いワイン」は「新しいワイン」よりも価値がある」という記述があるそうですから、はるか昔からワインの熟成の魅力に、人々は気づいていたことがわかります。
うまく熟成したワインは、香りが華やかで非常に複雑になり、味わいにおいては渋みや酸味が穏やかになり、滋味とも呼びたくなるような味わいが現れてきます。この複雑さ、角のとれた丸み、しみじみと染み渡るような旨みはなかなかリリース直後のワインでは感じることが難しく、それがゆえに愛好家たちは「5年後に飲もう」「10年後に飲もう」とワインを大事にしまいこむのです。
そもそもワインの「熟成」とはなにか?
一部のワインは熟成させると新たな魅力を見せることがあるのは紛れもない事実です。では、そもそも「熟成」とはなにか? も考えていきましょう。
熟成を経たワインは、色や香り、味わい(口あたりなどにも)に変化が起こります。その変化を起こしている大きな要素が「酸化」です。
ワインのボトル内にはわずかながら酸素が存在し、コルクで打栓したボトルであっても、コルクを通じて微量な酸素がボトル内に入ると言われています。
その酸素が、ワイン内部のアルコール、渋みの元であるタンニン、ワインの色合いを作り出すアントシアニンといったフェノール化合物と結びつくことで、様々な変化を起こすのです。
さらに、酸化を伴わない、化学的変化もワインの中では起こります。たとえば、糖分とアミノ酸の反応で起こり、ワインの色合いに影響するメイラード反応などはそのうちのひとつ。
このように、ワイン内に存在するアルコール、タンニン、アントシアニン、酸などが酸化したり化学反応を起こすことで色や香り、味わいが変化する。それがワインの「熟成」と呼ばれるプロセスで起こることなのです。
熟成に向くワインとは?
以上を踏まえて、熟成に向くワインとはなにか? を考えていきましょう。すると、「渋み、酸味などの強いワイン」がひとつの答えということになります。
なぜでしょうか。それは、熟成によって、渋みや酸味などをワインにもたらす要素は、酸化したり化学反応を起こしていくからです。もともと持っている渋みや酸味、果実味が少ないと、熟成に期待される香りや味わいの複雑な変化は起きず、ただ味気ないだけの「枯れたワイン」になってしまいます。では、渋みや、酸味といった“要素”の多いワインとはどのようなワインかといえば、身も蓋もありませんが、基本的には「高級ワイン」ということになります。ワインの“要素=エキス分”はひと枝につけるぶどうの房の数が大きく影響しますが、ひと枝につけるぶどうの房の数を減らすほど、当然ながらぶどうの収穫量は下がり、その分だけ価格に転嫁されるからです。
安価なワインは“早飲みタイプ”などとも言われますが、それはすなわち熟成をさせる必要がまったくないということ。渋みや酸味がはじめから適量であるため、出荷した瞬間、開けた瞬間がおいしさのピークになっている場合が多いと考えられるのです。
一方、要素の多いワインは、リリース直後に抜栓すると、渋みを強く感じたりすっぱく感じたりして、香りにおいても期待するほどのボリュームがなかったりします。このようなワインは、数年(ときには10年以上)寝かせておくことで過剰な渋み、酸味が熟成によって別の好ましい要素に変化し、いわゆる「飲みごろを迎えた」状態になる可能性があるのです。
一般に、白ワインよりも赤ワインのほうが長期熟成向きと言われますが、それは白ワインより赤ワインのほうがタンニンなど果皮や種などからの抽出物の量が多いから。要するに“要素”が多いからなんです。
熟成に向く品種、熟成に向くワイン
以上のことから、熟成に向くのはタンニンや酸を豊富に含む品種であり、それらの品種を使ったワインということになります。
たとえばフランス・ボルドーの代表的な品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー。ブルゴーニュ地方を代表するピノ・ノワール。ローヌ地方の名物であるシラーなどはすべて当てはまります。スペインのテンプラニーリョ、イタリアのネッビオーロなどからも、長期熟成向きのワインが造られています。
つまり、ボルドーの格付けシャトー、ブルゴーニュの一級畑や特級畑、イタリアのバローロなどは熟成による味わいの変化を期待できるワイン。リリース直後に購入しておいて、数年後に飲むのを心待ちにする……そんな楽しみ方ができるワインだと言えるでしょう。
また、一部の豊かな酸を持つシャンパーニュなどのスパークリングワインも、熟成して別の魅力を発揮することが多くあります。果皮を漬け込んでタンニンを引き出す製法のオレンジワインも熟成ポテンシャルを秘めています。
一方、前述の通り大量に生産される廉価レンジのワインは、熟成によって香りがなくなり、色も味わいも薄くなる、ということがままあります。すべてのワインが熟成すればおいしくなるわけではないことにも留意すべきでしょう。
飲みごろはいつ?
では、それら熟成向きのワインは、「いつ」飲むのがいいのでしょうか。その答えは「わからない」としか残念ながら言えません。
ワインの熟成にはまだわかっていないことも多く、その変化を正確に予想することは誰にもできません。収穫されたブドウの状態、それがワインになったときの状態、コルクかスクリューキャップか、どのように輸送されたか、どのような環境で保存されたかなど、ワインの熟成に関わる変数はあまりにも多く、「飲みごろ」をざっくり予想することくらいが精一杯。ワインは「飲みたい」「開けたい」と思ったときが飲みごろ、そういうふうに言われるのはそれが理由です。
ともあれ、満を持して開けたワインが思ったような熟成を遂げ、飲みごろのピークを迎えていた、なんていう経験はワイン好きにとっては至高の喜びのひとつでもあります。ワインセラーを購入したら、ぜひ1本でも2本でも、ちょっといいワインを買ってきて、自分なりの“熟成”を楽しまれてはいかがでしょうか。